人権思想がキリスト教をベースに構成されたのは事実である。キリスト教の根本思想はこの短いコラムではなかなか説明は難しいが（というか、筆者が根本的に理解してはいないのだが）、端的にいえばキリスト教とは「� �愛」「許容」「平等」の哲学ということがいえよう。敵をも愛し、敵の迫害をも赦し、神の御前では人はみな平等であるという思想であり、だから人を人として尊重するべきである、という人権思想につながるのだ。

この世の裁きよりも最後の審判を畏れる信者はそれほど多くはないかもしれないが、人権思想の成立には多いなる影響を与えているはずである。キリスト教の思想がベースとなり人権思想が育まれたというのは天賦人権説という文字にも現れている。生まれながら天に賦与された権利が人権なのである。本来なら神賦人権、というべきものであり、すなわち天（神）に与えられた権利を人間が侵すことはできない。これが死刑廃止論の源流となっているのはいうまでもない。

もうひとつキリスト教の概念で忘れてならないのは「原罪」という思想である。本来人間は永遠に生きられるものでありながら、楽園追放から人は生まれながらに罪を背負って生きており、その罪の罰� ��死である、という考えである。すなわち裁判官・警察官・検察官すらも罪人なのであり、罪あるものが人を罰していいのか？という問題が提起されるのである。

この天賦人権思想はフランス革命以来脈々と西欧諸国に浸透してきた。人権思想は絶対君主制に対抗できる思想であり、この思想がフランス隣国の君主から恐れられていたのはよく知られている事実である。キリスト教の思想と一致している人権思想は人を人として尊重するところから始まり、これが民主主義制への移行していくのである。搾取されるだけの存在から、一個の人間として権利を確約される。この思想は圧倒的な支持を受けたのである。

しかしながら人権思想が絶対的な思想である、というのは明らかに過ちである。人権思想は資本主義と同じように相対的に人類が選択してきた制度のひとつに過ぎないのである。し� �しながら日本を始め世界中の多くの国は人権思想を絶対のものとして制度化している。これがそれぞれの地域の実情に合わない様々な問題を生み出しているといってもいいだろう。死刑制度もそのひとつであるといえるのではないか？

もし絶対人権主義というものがあるとすれば、その思想は国家という概念を否定するだろう。人類性善説に立てばその思想も幻想ではないかもしれない。

しかしキリスト教の教義は人類性悪説に基づいている、と思う。キリスト教・人権思想を源流にした民主主義制度は人間性悪説に基づいている。国家権力の集中を排除し独裁を許さないシステムである民主主義制度は、言い換えれば独裁者の能力、性格を疑い否定する人間性悪説に基づく制度なのである。つまり人権思想と民主主義とは本来根本的な部分で相容れないものなのではないだろうか？

余談になるがキリスト教の始祖、ナザレのイエスも当時の律法に照らして裁判を受け、死刑判決を受けた死刑囚であった。し かしながらキリスト教の聖典である新約聖書には死刑に関して、その制度への批判は見られない。