競艇(きょうてい)は、競輪・競馬・オートレースと並ぶ公営競技(公営ギャンブル)の1つで、 モーターボート競走法をはじめとする法律・ルールの下[1]、プロの選手達によって行われるモーターボート競技である。
モーターボート競走法により、総務大臣による指定自治体が地方自治法に基づく一部事務組合となり、パリミュチュエル方式により勝舟投票券(舟券)を販売している。
所轄官庁は国土交通省(中央省庁再編前は運輸省)で、造船関係の産業を振興すること等を目的として、1952年(昭和27年)から実施された。それ以来長らく日本独自のものであったが、2002年(平成14年)より韓国の美沙里(ミサリ)競艇場でも行われるようになった。
かつての呼称は「ボート」「ボートレース」「モーターボート競走」と統一性はなかったが、1997年(平成9年)度から2009年度まで「競艇 (kyotei)」に統一[2]。2010年(平成22年)度からは統一呼称を「BOAT RACE」に変更した[3][4]。
以下の節では、主に日本で行われている競走について詳述する。
[編集] 競走を構成する要素
[編集] 競走水面
競艇の競走が行われる水面を競走水面という[1]。競走水面の規格は33000m2以上(縦75m以上×横440m以上)である[5]。競走水面は湖や河川、海などを利用して設置され、淡水レース場と海水レース場に大別される[5]。
スタートラインから150m離れた競走水面上には、2つのブイ(ターンマーク)が浮かんでいる。スタンドから見て右側に浮かぶターンマークを第1ターンマーク、左側に浮かぶターンマークを第2ターンマークという[6]。第2ターンマークから20mセンターポール寄りの競走水面上にはオレンジ色のブイが浮かび [6]、さらに第2ターンマークとセンターポールとの間の4箇所(スタートラインから5m、45m、80m、100mの位置)にポール(標識ポール)が浮かんでいる[7]。標識ポールはスタート時に選手が通過時間を確認するために設置されているもので、標識ポールに対応する形でスタンド寄りの競走水面上にスタートラインまでの距離を表示する標示板が設置され[8]、さらにスタートラインから5m、45m、80-85mを示す空中線が張られている[8]。
競走の際はスタートラインを通過後、第1ターンマークと第2ターンマークを旋回する形で競走水面上を反時計回り(左回り)に3周する[8](荒天の場合は2周に短縮される場合もある)。これは水上交通に関する世界的なルール(船舶はすべて右側通行)に従っているためである[8]。ターンマーク(正確にはターンマークとスタンド側を垂直に結ぶ線)間の距離は300mで、約1,800mを航走する。なお、ボートと選手が着用するカポック(防具)には艇番と枠番別の色が、ボートの舳先には枠番色別の旗がつけられて区別している。
スタンド側中央の水面には大時計と呼ばれる時計が設置されており、これはスタート時に使用される[5]。水上で艇を同じ位置にとどめることは困難であるため、競艇では「大時計が0秒を指してから1秒以内にスタートラインを通過すればよい」とされ(フライングスタート法)、大時計が0秒を指すよりも早くスタートラインを通過するとフライング、1秒を過ぎてから通過すると出遅れとなり、欠場扱いされ出走資格を失う[9]。大時計には1分で1回転する1分針(白色)と、12秒で回転する12秒針(黄色)の2つの針がある[10]。
競走水面中央部にある白色のポール(センターポール)の見透し線上がスタートおよびゴールラインとなる[11]。ラインを通過に関する判定は、電子スリットと呼ばれる仕組みによって行われる[5]。電子スリットはシャッター装置がないカメラ(スリットカメラ)によって撮影される。スリットカメラにはスタートラインに合わせる形で100分の3mmの細い隙間(スリット)が設定され、スリット部分のみが撮影されるように設定されている[12]。スリットカメラの動きは大時計と連動しており、大時計が1秒前を指すと撮影が開始される[13]。大時計が0秒と1秒を指した際にはスリットカメラに電気信号が送られ、それにより電子スリットに白線が写りこむ。艇首が最初の白線(正確には白線の右端[14])より前に出る形で写っていればフライング、2本目の白線(正確には白線の右端[14])より後ろに写っていればフライングをしていることになる[15]。また、より速くスタートラインを通過した艇はスリットに短時間、遅く通過した艇は長時間スリットに写りこむため、電子スリット上に前者はより短く、後者はより長く写ることになる[15]。
[編集] 艇
ボート[† 1]・モーター(=エンジン。競艇界特有の呼称)[† 2]は競艇場に用意されており、開催初日の前日(「前検日」と呼ばれる)に抽選で各選手に割り当てられる。各競艇場は60ないし70機のモーターを保有しており、1つのエンジンは最大で1年間使用される[16]。
開催期間中の選手はモーターの整備とプロペラ[† 3]のマッチングの調整に多くの時間を費やす[† 4]。モーターの整備も整備士に相談することはできるが、作業はすべて選手自身で行わなければならない。
モーターは同じロットの量産品であるが、選手がどのような整備を行ったかによって発揮される性能に差が生じる。特にSG、G1といった格の高いレースでは選手の整備力が勝敗を左右する[16]。転覆などでモーターが水を被るとその後の調整しだいでモーターの性格が大きく変化することがある。こうしてある程度モーターが「育った」状態になると、選手がくじ引きでどのモーターを引くかが勝敗の分かれ目になる。このため、各紙の着順予想ではモーターの状態を表すマークが記載されている。なお、モーターとボートは登録から1年を超えて競走に使用できないことから、年に1度一斉に取り替えられる。
モーターやプロペラの整備後、選手は次の競走までの間に水面を利用して試運転を行う。走行回数に制限はなく、整備をしてはこまめに試運転を繰り返す選手もいれば、あまり試運転を行わない選手もいる。この試運転も舟券の予想の参考になる。
モーターとボートはすべてヤマト発動機製の同一規格のもので、抽選によって各選手に割り当てられる[17]。規格が同じであるため、追い込みが決まることはほとんどない[18]。モーターは400ccの2気筒2サイクルで、重さは40kg弱である[19]。
競走中、ボートの速度は時速80キロ強に達する[20]。最高速度で走行している時、選手は「デコボコ道をダンプで猛スピードで走った」ような衝撃と、「大雨の日にアスファルト道路を全速力で走った」ようなハンドル操作の感覚を覚えるという[21]。強風や波浪などで波高が高くなるなどの要因で水面が荒れている場合は、ボートが水面でバウンドした時に転覆しやすくなり危険なため、各ボートに「安定板」と呼ばれるフィンを主催者判断で装着することがある。安定板を装着すると船体は安定するが、ダッシュ力が落ち伸びが悪くなるといわれ、着順予想にも影響を与えるため事前に「安定板装着」であることが主催者より告知される。
ボートの両サイドには、番号によるボートの識別を可能とするよう、番号札がつけられている[22]。また、ボートに付けられる艇旗の色は枠番に基づきユニフォームの色に合わせて決められており、[23]、さらにボートのカウリングの色も合わせられる場合がある[22]。
[編集] 選手
詳細は「競艇選手」を参照
「やまと学校」も参照
選手は、やまと学校での1年間の訓練を経て選手登録試験に合格した者である[24]。選手を一人育成するにはおよそ1000万円を要するといわれており[25]、入所者はそのうちの約60万円を負担する[25](23期以前は、自費負担による研修が行われていた[26])。やまと学校への入校は年に2回、3月と9月に行われる。9月入校組(奇数期)は訓練期間の前半と気温が零下にまで落ち込む厳寒期が重なり、3月入校組(偶数期)よりも厳しい条件で訓練されることになるが、偶数期よりも圧倒的に多くのスターを輩出している[27]。登録試験に合格した選手には登録番号が割り振られる(引退した選手の番号が再び使われることはない)[26]。
競艇選手には定年がなく[28]、他の公営競技と比べ、現役選手として活動する期間が長く、経験が豊富で駆け引きの巧みな年長者と新人選手の競走も見所である。先輩・後輩の力関係、日本各地の競艇場を転戦するため選手の出身地も舟券予想の重要なポイントのひとつとされる。一見、機械に依存している様に見えるが、実際には熱い人間ドラマが繰り広げられている。
なお、かつては体重の下限に規定がなく、期間中に過酷な減量を行い体調を崩す選手が多発したため、1988年11月に「体重に関する規定」が設けられ、現在は男子が50kg、女子が47kgを下限とし、これを下回った場合は重りを載せて調整する。
選手は成績をもとにA1、A2、B1、B2の4つの級にランク分けされる[29]。基準となる成績は具体的に、
- 2連率(1着および2着になった回数を出走回数で除し、百分率で表した数値[30])および3連率(1着、2着および3着になった回数を出走回数で除し、百分率で表した数値[30]。
- 勝率 - 着順ごとに設定された着順点を合計し、出走回数で除した数値[30]。
- 事故率 - 事故のためゴールできなかったりレースを欠場した際に課される事故点を合計し、出走回数で除した数値[31]。
- 出走回数[† 5]
である。成績の集計期間は5-10月(前期)と11-4月(後期)の年2回である[32][33]。
選手は日本モーターボート競走会から競艇場への斡旋によりレースに出場するが、1か月における斡旋日数はA級で約15日、B1級が約12日、B2級が約8日と、ランクによって異なる[34]。なお、フライングを行った選手はすでに出場が決まっているレースに出場後、30日以上の間レースを欠場し、愛知県碧南市にある訓練所でスタート訓練を受けなければならない[35]。ただし、1回目のフライングをしてからの70レースでフライングをしなければ、訓練納付金6万円を納めるだけで訓練を免れることができる[36]。
競走に出場する選手には、
- ユニフォーム
- 硬質のヘルメット(フルフェイス)
- 救命胴衣(カポック)。むち打ち防止用のパット付き。
- 長ズボン
- 靴
の着用が義務づけられている[37]。長ズボンと靴については、ケブラー製のものが多く使用されている[20]。
ユニフォームの色は、枠番によって
- 1枠 1号艇 - 白
- 2枠 2号艇 - 黒
- 3枠 3号艇 - 赤
- 4枠 4号艇 - 青
- 5枠 5号艇 - 黄
- 6枠 6号艇 - 緑
と決められている[23][† 6] 。ボートに付けられる艇旗の色もこれに合わせられ[23]、さらにボートのカウリングの色も合わせられる場合もある[22]。
ユニフォームの背中の部分には番号によるボートの識別を可能とするよう、番号札がつけられている[22]。
選手が競走場へ持ち込み、使用することが認められている私物は以下の通り。