2012年3月5日月曜日

遺言とリビングウイル(1997.09)

遺言とリビングウイル(1997.09)

遺言とリビングウイル(1997.09)

遺言とリビングウイル


自分の遺言書を作る

  死の前に行う準備に、遺言書の作成がある。多くの人は、遺言書は自分の死を連想するためか、この手続きを避けようとする。しかし遺言書のメリットは少なくない。
  日本では遺言書の作成はまだ少ないが、イギリスでは成人の3分の1が作っているという。遺言書では、自分名義の土地や家屋、自動車、種々の保険証券と貯蓄預金をだれに譲るかを指定できる。また、未成年者は財産上の権利を持てないが、その子供たちの後見人を指定できる。遺言書は、子供のいない一人暮らしの者にも重要である。相続人のいない財産は凍結され、葬儀をした人が立て替えた葬儀代も払われないことがある。また遺言書によって、多くの家族の不必要な金銭的トラブルを避けることができる。

  遺言書を作成する前に5つの準備がある。
(1)あなたの財産である、土地・家屋、貯金・株・美術品などの細目と、その価値を書き出す。
(2)それらを、誰に譲りたいかを考える。
(3)相続する相手が子供たちや孫の場合、財産を譲る時期と後見人を考える。
(4)慈善団体に寄付するかどうかを考える。
(5)遺言執行者を選ぶ。遺言執行者は、配偶者や家族や友人でもよい。また代理人を頼むことができる。


遺言書の種類

  遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、そして秘密証書遺言がある。遺言は正しい書式に則らないと無効になるので注意。また、それが財産分割がすんだあとに発見されるようでは意味がないので、管理もしっかりする。


遺言書は事前に問題を解決する

  資産を適切な相続者に分配することで、死ぬ前に死後に生ずる問題を解決する。相続税については、基礎控除額以下であれば相続税はかからない。基礎控除額は平成6年以降の場合、5,000万円プラス法定相続人数×1,000万円。相続税額を少なくするために、生きている間に贈与する方法もある。配偶者へは20年連れ添っていた場合には、2,000万円まで贈与税がかからない。その年の基礎控除分60万を含めると、2,060万円となる。
  配偶者が死ねば、故人名義の銀行口座は凍結される。そこで、死が近くなったら、あらかじめ葬儀分だけでも銀行から引き出すという人がある。

 

遺言が必要なケース

子の後見人を指定する

  妻を亡くした男性に、二人の子供が残された。この男性は仕事で海外に出張することが多いので、出張中に飛行機事故にあったら、残された子供たちはどうなるかわからない。そうした場合に備えて、子供たちの後見人を決めておくことが出来る。
  未成年者の後見人とは、子供に親権者がいない場合に、その子供が成人になるまで、教育と財産管理を引き受ける者を指定する。ただし生前にこの親権者が決められないまま死亡した場合には、家庭裁判所で後見人を選任してもらうことができる。

夫婦が互いに遺言

  ある夫婦が、自分たちの住む家屋を処分して、老人ホームに入所した。二人はどちらが先に亡くなるかはわからないが、どちらが先に死んでも互いに所有する財産は、夫は妻に、妻は夫に相続させる遺言を希望した。そうした場合でも、それぞれが別々に遺言書を作成する必要がある。

土地を担保に生活費

  一人暮らしの老人が、自分の不動産を担保に生活費を借りるために遺言書を作成した。金は信託銀行から借り、借りた元利金の返済は、遺言者が死亡したときに土地建物の換価代金をあてることにした。その措置をとったあとに残された金銭については、彼が住んでいる区に寄付するということを記した。


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病院でする遺言

  一人暮らしの老人が病院に入院した。彼は子供がいないので、自分の財産をお世話になった団体に寄付したいと考えており、希望を正式な遺言書に記しておかないと、財産は国家に没収されることを知った。公正証書で遺言をしたいが、本人が公証役場に行けないときは、公証人が病院に出向いて遺言を作成する「出張遺言」がある。公証人は、2人の証人が立ち合って遺言内容を記載し、書き取ったものを読んで確認し、遺言者と証人2人、そして公証人の署名・押印をして完成させる。

嫁ぎ先で夫が死亡

  女性は、夫と夫の両親との4人暮らしであったが、ある日夫が両親より早くガンで死亡してしまった。この両親には他家に嫁いだ長女がいたので、両親が亡くなれば(法定相続なら)その財産は長女が相続することになる。そこでこの女性は、両親の老後の世話をするという条件で不動産を相続するという遺言書を書いてもらい、自分の立場を確保した。ただし自分が死亡したら、嫁いだ長女が相続するという条件で。
  これとは逆に、父親が死亡したあと、その財産を遺言で一人息子に譲り問題になったケースがある。というのも、しばらく母と息子夫婦が生活していた。あるとき息子が母親より先に死んでしまい、息子の嫁が相続人として、土地を売って実家に帰ってしまったからである。これで困ったのは母親であること� ��いうまでもない。

痴呆老人の遺言

  痴呆老人は遺言書が書けるか。歳老いた母親には3人の子供があり、長男夫婦と同居している。母親は自分が死んだら財産は長男だけに残すといっていたが、その母がボケてしまった場合は、遺言状を書くことはできない。母が亡くなった時には、法定相続人である3人の子供が等しく分配されることになるので、もし残りの2人が相続権をかざして財産の分配を要求したら、裁判になることが予測される。ボケるかどうかは、いつ死ぬかということと同じで誰にも予想できないので、遺言を作成することで未然にトラブルが防げるものなら、ボケる前に早く手を打ちたいものである。

 

公正証書の費用

  遺言にはいくつかの形式があるが、そのなかでも最も間違いが少ないのが公正証書遺言である。公正証書は公証役場で作成してもらうが、その手数料は、相続する相手ごとに金額がかかり、5,000万円までなら29,000円、1億円までなら43,000円となる。また、病院まで出張してもらう場合には1日2万円の費用と交通費が必要。

 

残しておきたい事柄

  遺言書のほかに、遺族の助けになる事柄、例えば、死後の手続きに関する詳細も残しておきたい。それは次のようなものがある。

住所と地域の登記事務所

  あなたの氏名と住所・電話番号、出生日、本籍、(最後の)勤務先、配偶者(氏名と本籍、両親、生年月日)、年金や保険番号、健康保険証。

死後、遺族に残す情報

  銀行の口座番号、社会保険証書、クレジットカード、抵当証券、株券、住宅保険、生命保険、借金やローンの明細、自動車車検、ガス、電気、水道、電話局、債権、住宅の詳細、かかりつけの医師名、弁護士名、会計士名、証券会社名、所属団体名、得意先、所属する宗派と僧侶、葬儀に招きたい人、葬儀の形式、葬儀社、埋葬場所などがある。

 


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リビング・ウイル

  死を間近にした人にとって、最後まで痛みのともなうことは耐えられないことである。
  そこで、本人の生死に関する希望を伝えることによって、不必要な治療を抑え、安らかに死を迎えようという運動がある。それは、自発的な尊厳死を用意する「事前宣言書(リビング・ウイル)」として知られるものである。この書類は、アメリカや英国だけでなく、日本でも会員が増加している。患者の死を手伝う積極的な立場をとる医者は、状況によっては、殺人や自殺ほう助になる。しかし「事前宣言書」は、ただ受動的な尊厳死だけを求めるため、医師は罪には問われない。1994年4月に、日本学術会議・死と医療特別委員会「尊厳死について」は、一定の要件の下で延命医療の中止が許容されるべきであるとしている。

1.患者が医学的に回復の可能性がなく、延命医療の段階であること。
2.患者が尊厳死を望む意志を担当医に表明(患者に意識がない場合はリビング・ウィル)を残しているか、近親者の証言があること。

 

日本での尊厳死

  医療の進歩で、昔なら助からなかった命も救われるようになった。その反面、末期で回復の見込みのない患者を生かし続ける延命技術も発達した。人工呼吸器などチューブ状の生命維持装置が体内に差し込まれた状態は、「スパゲティ症候群」と呼ばれ、過剰な医療の象徴とみなされている。
  こうした風潮のなかで、むだな延命治療を拒否し、自然に近いかたちで死を迎える権利の確立を求めて運動している団体がある。国内で最も大きい民間団体が日本尊厳死協会だ。
  日本尊厳死協会は、1976年1月に、医師で国会議員の故太田典礼氏を中心に医師や法律家などが集まって設立された。自分の病気が医学では治らず、死が迫ったときに、自らの「死を選ぶ権利」を持ち、その権利を社会に認めてもらおうというもので� ��る。
  日本尊厳死協会の会員は年々増え、設立20年目の97年には8万人になった。会員の約6割が65歳以上であるが、若い人の会員も多くいる。死亡会員の遺族のアンケートをみると、1997年には96%の医師が「リビング・ウイル」を受容したという。

その主な趣旨

□不治かつ末期になった場合に、延命措置を拒否する
□苦痛を最大限に和らげる治療を希望する
□植物状態に陥った場合、生命維持装置での生存を希望しない。日本尊厳死協会は、こうした趣旨を謳った「リビング・ウイル」を発行し、入会者が作成したこの書面を保管している。

◇日本尊厳死協会
  http://www.alpha-web.ne.jp/songensi/

 

「終末期宣言書」

  東京都文京区で開業する医師の西村文夫さんは、1990年に「終末期を考える市民の会」を発足させた。自分の願う死に方を実現するため、ホスピスの建設や介護体制の充実を自治体に要望するなど、「地域社会に積極的に働きかけていくことも会の目標の一つ」(西村会長)としている。
  この会が作成した、リビング・ウイルに似た宣言書に、「終末期宣言書」がある。これは、終末期になったら、病名とその性質の告知を希望し、治療方針(延命か除苦痛・自然死か)、在宅死か病院死か、脳死状態での臓器提供を認めるか拒否するかなど、自分の意思や希望を家族や医療担当者に正確に伝えるために、体や精神が健全なときに書面に書き留めて、自分の署名をした書類である。

「終末期宣言」を書いた後

  入会したあと、「終末期宣言書」を会に送付すれば、会で番号をつけて登録し、「会員登録証」と「終末期宣言書」のコピー2通を返送してくれる。

代理人委任状

  自分の意志をよく知っている人を代理人に指名し、自分の意識がなくなった後の対応を、その人が代弁してくれるように、あらかじめ意志表示しておくもの。

  終末期医療についての代理人委任状(例)


NJ検査ステッカーの裏に印刷されているもの

  私の意識がなくなった場合に、私の「終末期宣言書」が忠実に実行されることを見届け、延命や生命維持装置の装着継続及び停止を含め、私への措置が私の意思を尊重したものであるかどうかを決定する代理人として、次の者を指名する。(名前)

  宣言書には、選択項目が設けられている。

■最後の場所の選択

(最後の場所は)
□家を望む。自宅で可能な医療と介護だけで結構である。
□病院 
□ホスピスで最後まで看取ってほしい。

■苦痛の除去の選択

(私の死が不可避であり、なお意識があるとき)
□肉体的、精神的苦痛を取り除く措置をできる限り実施してほしい。そのために死ぬ時期が早くなってもかまわない。
□苦痛を除去するために生命を縮める恐れのある措置はしないでほしい。その時は苦痛を忍ぶ。

延命医療でも、次の選択肢がある。

(私が終末の状態であると診断されたとき、および3ヶ月以上植物状態が続いたとき)
□延命措置(蘇生術、生命維持の装着または継続を含む)をいっさい断る。
□最後まで最高の医療技術で延命の措置を続ける。

◇終末期を考える市民の会
 

 

事前宣言書(リビング・ウイル)の外国の例

  リビング・ウイルは、それを発行する団体により、その書式内容が多少異なっている。次にあげるものはイギリスの「自然死センター」が作成しているものである。自然死センターは、3人の精神療法医によって1991年に設立された慈善団体である。この「事前宣言書」を作成した患者は、医者にその書類のコピーを提出し自分の立場を明らかにする。また「事前宣言書」をする人は、何年かに一度は更新することが勧められる。


リビングウイル(英国の自然死センターの脚色)

  家族と医者とすべての治療関係者へ。
  この宣言書は、私が健全な精神状態にあるとき、注意深く考えて作成したものである。私はいかなる病気にかかっても、その治療法と、その経過についての詳しい説明を望む。私に以下の状況が生じた場合、それを指示する

(1)私は下に示す病気で苦しみ
(2)医療方法を決める場に臨めず
(3)2人の医者が、私の病気が回復できず、ひどい苦痛や正常な知力が維持出来ないと判断された場合

そうした状況になった時の指示

(1)単に生命の延長と維持のための、医療行為をしてほしくない。
(2)嘆かわしい徴候(栄養不足が原因であっても)になったら、その処置によって死期を早めることになっても、適切な鎮痛療法や他の治療によって痛みをコントロールする。
(3)(水分以外は)無理に食事をとらせない。
(4)出来れば、最後の日を自宅で過ごす。

  私は、上の指示に従ってされること、することしないことに同意し、それによって生じる従事者の民事責任を問わない。
  私の死期が近づいたら、(適切な痛みの制御を考慮し)状況が許す限り、意識が保たれることを希望する。医師は、この指示書に配慮されるようお願いする。
  私はいつでもこの指示書を無効にする権利を保留している。しかし私が無効にしない間は、指示が継続しているものと解釈されたい。

  病名
  A 進行した悪性疾患
  B 重い免疫疾患
  C 神経系の退行性疾患
  D けが、卒中、疾患や他の原因による、重く永続的な脳障害
  E アルツハイマーなどの、老人性痴呆症
  F その他類似の重大な病状

  私は以下の医師に、このリビング・ウイルのコピーを提出した。
  私は先に述べた希望が伝えられなくなった場合、私は代理人に次の者を任命する。
  (氏名)

  上に指名された人たちは、我々の前で署名したことを証言する。



自然死の指示

  次もニコラス・オールバリー著『自然死ハンドブック』(二見書房)に引用されている、医師に希望を述べた書類である。外国では、指示内容が大変に個人的なことが特徴である。もっとも自分の最後の願いであるから、遠慮などしてはいられない。

1. 私が末期に至ったら、治療をやめ、死が自然に進むことを望む
  a.末期は、病院でなく自宅で過ごしたい。
  b.医者の世話にはならない。医療者は、生については知っているが、死については何も知らないと思う。
  c.死が迫ったら、室内ではなく、戸外にいることを望む。
  d.私は食物を慎み、絶食して死ぬことを望む。

2.私は死の過程を体験したいので、鎮静剤、鎮痛剤、麻酔薬を用いないことを望む。

3.私は速やかに、可能な限り静かに死ぬことを望む。
  a.注射、心臓マッサージは必要ない。酸素吸入や輸血も必要としない。
  b.看取る人の後悔や悲しみの表現は聞きたくない。彼等とは、静けさと威厳、理解と喜びをもって、死を迎えたい。
  
4.葬式と他の付随的な細部
  a.法律が定める以外は、葬儀社やその他のプロを使わない。
  b.棺は簡素な木製のもの。遺体には作業服を着せ寝袋の上に置く。棺の蓋の上には飾りを置かない。
  c.火葬場で火葬する。
  d.葬式はしない。説教師、司祭も必要ない。
  e.火葬後に、妻が遺灰を自宅の木の下に散骨する。
  
5.私はこれらを、意識ある状態で記した。以上の実行を要請する。

(『良い人生に愛と別れを』ヘレン・ニアリング著、チェルシー・グリーン出版・1992年より)

 

自分の葬儀を考える

  J・ホワイト著『死と友になる』春秋社166頁には、死が発生してから、その遺族が行うチェック項目が掲載されている。内容はアメリカの「メモリアル・ソサエティ」発行の手引書から再録されたもの。

□葬式または追悼式の日時、場所を決める。
□近親者、親しい友人、部下、同僚のリストを作り、それぞれに電話で知らせる。
□供花を断る場合には、適当な供えの形態を決める(教会、図書館、学校、寄付など)。
□死亡通知文を書く(年齢、出生地、死因、職業、学位、会員として加盟している団体、兵役、業績、遺族)。葬式の日時、場所を通知する。直接か、電話か、新聞で通知する。
□保険会社に通知する。自動車保険は解約し、払い戻しを受ける。
□弔問や電話を受ける当番を、家族、親しい友人のなかで決め、弔問の記録を注意して取っておく。
□幼児の世話の手順を決める。
□数日分の食物の手配をする。
□家事面の必要事項を考える(カーペットのクリーニングなど。友人の手伝い可能) 。
□友人、親戚など訪問客の接待の準備。
□棺を担う人を決め、依頼する(心臓の悪い人、背骨の痛い人は避ける。そのような人たちは付き添ってもらうだけにする)。
□弁護士と遺言執行人に通知する。
□葬式後の供花を、どうするかを決める。
□死亡通知のコピーを作成し、欲しい人に配布できるようにする。
□供花、弔問の礼状を出す先のリストを作成する。礼状を出す(手書き、印刷など)。
□保険類について細心に検討する。すべての生命保険、災害保険、死亡についての給付金(福祉年金、信用組合、労働組合、友愛組合、軍関係など)をチェックし、遺族に支給されるべき給付金を確認する。
□すみやかに、負債、分割払い未払い分を調べる。債権者と相談し、支払機関の猶予を願う。
□故� ��が一人暮らしの場合、電気、ガス、水道会社、家主に通知する。郵便の転送先を郵便局に届ける。

  このように、死が発生してから残された家族が行わなければならない項目が、葬儀以外にもたくさんある。

 

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