オーストラリアの青い空 私立探偵中出好男
犯人は隣のガレージの屋根からこの屋根に飛び移り白昼短時間で目的を達した―と言うことは犯人はこの老人の後ろ隣の家、つまりは―視線をその家に移した。
窓にはカーテンがかかっていて中は見えないが、庭の様子は良く見えた。
「おや」
と小さな物体が視界に入り、焦点を小さな砂場に集中すると、鉄人サンダースと思われる超合金が砂にまみれてあるではないか。
好男の視力は推定9.5。暗闇と覗きで鍛えられたその目は砂の粒まで虫眼鏡のように見えるのだ。
「あった、あったぞ。奥さん、マー君、この中出好男が鉄人を見つけたぞ!」
「え、おっさん本当なのか?」
マー君は喜びの余り飛び跳ねるように梯子を上ってきた。
そのマー君の足が屋� ��にかかろうとした時―
「あっ」
と彼はバランスを崩した。
好男はそのすぐ側にいた。
こういう時映画なら
「俺の手につかまれ!」
とサッと手を伸ばすところだが、さっきから好男は右耳の奥に猛烈な痒みを感じていた。
マー君の手を掴むか右耳を掻くか彼の右手は迷っている。
その時―あのショッピングセンターでの言いようのない不快な思いが走馬灯のように脳裏を駆け巡った。
その瞬間好男の右手は右耳を搔いていた。
「あーっ」
の声とドサッと鈍い音があたりに響いた。
「マ、マー君大丈夫!」
慌てふためいた江津子が駆け寄ってマー君を抱き起こした。
しかし彼はぐったりしている。
コルマール、PA 18915はどこにあるのでしょうか?
そこへ、老人と好男がゆっくりと梯子を伝って降りてきた。
老人はマー君の横に膝をかがめるとその首筋にそっと手を触れた。
「ご臨終です。打ち所が悪かったですな」
と首を横にゆっくりと振り事務的に答えた。
「奥さん、昔テニスボールをとろうとして崖から落ちて死んだ日本人の事を思い出したよ。小に拘り大を失う。玩具の一つや二つで大騒ぎして探偵まで雇う。そのあなたの盲愛が彼の命を奪ったのです」
好男は江津子を上から見据え拳を振って講釈した。
「なんなのよこんな時に―普通こんな時は"早くっ救急車だっ"て焦りまくるのが基本でしょ?あなた人の情がないの?」
江津子は金切り声を上げる。
好男はそれを完全に無視し、今度は老人に 向かっていった。
「老人、ところであなたの名前は?」
「わしかい、わしはフロイラン パリィ」
老人はまた煙草を取り出し、古風にマッチで火をつけた。
一仕事終えた後の充実感がその仕草に現れている。
「ところで老人、犯人は何故超合金だけを盗んだんでしょう?」
「実はな、あの家の主は昔日本に住んどったらしい。主の父親が日系企業に勤めていてな」
「もしや、その父親があの超合金の設計者?それで懐かしくなって―」
「いや違う、彼は子供の頃日本の田舎にいたそうじゃが、パツ金と言う事で滅茶苦茶虐められたらしい。いつも超合金ロボで殴られてな、体は痣だらけだったそうじゃ?」
「それで超合金を見ると―」
「そうじゃ。幼児期の恐ろしい体験が今尚超合金シンドロームとし て彼を苦しめているのじゃ」
「なんと可愛そうに…」
好男は目頭に手を当て鼻をすすった。
「ところで老人あなたの前職は?」
「刑事じゃ。かつては夜明けのパリパリと恐れられたもんじゃ」
「やはり…。今後あなたは私のパートナーだ。よろしいかな?」
「いいだろう」
老人は鷹揚に頷いた。
二人は熱く握手を交わし何も無かったようにその場を後にした。
石器時代の人々は農場を持っていましたか?
江津子はその様子をポカンと口を開けて見ていた。
「ちょっと行っちゃうの?」
江津子がまた甲高い声を上げる。
その声も二人は無視して振り返らず歩み続ける。
「ちょっと助けてよ。こんな時英語なんて話せる心境じゃないわ。救急車くらい呼んでよ!」
その声を受けて好男の歩みのみが止まった。
老人はそのままの歩調で歩み去っていく―。
好男は回れ右をし江津子のほうに歩き始めた。
彼女の顔に安堵の色が走る。
好男は江津子と向かい合う形で膝を屈めそっと白い封筒を渡し、
「ご愁傷様です」
と江津子の目を食い入るように見た。
彼女はその封筒を震える手で開けた。
中からは請求 書が出てきた。額面は―5500ドル!?
10%の消費税もしっかり加算されている。
「そんな、法外な!」
江津子は怒りにその紙片を好男に投げつけた。
「正当な額です。私はプロ中のプロ。己の安売りはしない主義でね。
3日以内に払ってください」
「あ、そんな事より救急車!救急車を呼んでよ」
江津子は好男の肩をゆすって催促した。
「奥さん、過ぎ去った過去にいつまでも拘るものではありません。子供の一人や二人僕がいくらでも作ってあげますよ」
と好男は妖しい視線を投げた。
盆地を使用する方法
江津子はその不気味さにごくりと唾を飲み込んだ。うなじが震えている。
「奥さんっ―」
鼻の穴を膨らませた好男はいきなり江津子を抱きしめ唇を吸った。
「な、何をするの!?子供の死体の前で!」
江津子は好男を激しく突き放した。
「奥さんっ、奥さんはサラリーマンとの平凡な夜に満足していない。だから子供が一人しか出来ないんです。僕があなたを別世界へとお連れしますよ」
図星であった。江津子は確かに刺激を求めていた。彼女はひるんだ。
「さあ奥さん、僕の目を見るんです。全てを忘れて僕の胸の中へ―」
いけない―と思いつつも江津子の瞼の奥の欲望は、好男の細い目の中に吸い取られていった。
彼は不細工であったがこ の細い目には不思議な魔力が備わっている。
この目で過去何度もホームレスの女をいわしてきた。
もしかしたら彼の知らない所に彼の子供がいるかもしれない。
だがそんな事はどうでもよかった。
彼の使命は子供を作る事で育てる事ではない。
江津子の心の動揺を見透かした好男は再び彼女を抱き寄せた。
彼女は意思を失った人形のように彼の腕の間にすっぽりと嵌った。
「フフフいい娘だ」
好男は再び彼女の唇を吸った。
そして次に、彼は彼の名前に忠実であるべく江津子の赤いスカートの裾をまくりあげ黒いGストリングに手をかけた。
「だめよ―よしお.さ.
だがその抵抗は弱いものになっていた。
好男の手が江津子の敏感な部分に触れたとき彼女の体はビクリと痙攣し、
熱い吐息が洩れた。
「あ~好男さん―」
江津子はとうとう好男を受け入れてしまった。
「すごいわ好男さん…」
元ホームレスの野獣の咆哮は平凡なサラリーマンの比ではなかった。
好男は死肉に群がるハイエナのように江津子を貪り、江津子の肉体はそのハイエナのなすがままに食いちぎられていった。
激しい交わりの末、背中をサソリのようにそりあげると、
「なかでよしおここに推参!」
絞り出すような声でそう叫んで好男は果てた。
と―その時、
「おじさん何してるの?」
と死んでいたはずのマー君が口を動かした� ��
「マー君生きていたの?」
好男の体からスポッと飛び離れた江津子は胸をはだけたままマー君を抱きしめた。
「うんママ、僕が悪かったよ。超合金の玩具なんてもう要らない」
マー君は頭を強くうった衝撃でよい子になっていた。
「そうだマー坊。これからママのお腹から生きた玩具が生まれて来るんだ。小さなことに拘ってちゃ、いいお兄ちゃんにはなれないぞ!」
好男は前をおもむろにしまいながら言った。
「うん!」
マー君はオーストラリアの青空のように澄み切った目で大きく頷いた。
♥ハッピーエンド♥
ドラマ化決定か!?
あとがき
みなさ~ん!最後までちゃんと読んでくれた?
この物語の本意、それは犯罪促進ではなく、「日本人を犯罪から守りたい」との一心なのよ。
わかってもらえたかな?
ところで加筆点が二つあります。
一つは車のナンバープレートは必ずワンウェイネジ(締めるの方にしか回らないもの)で取り付けた方がいいと言う事。
ワンウェイ専用のドライバーもあるけど、狙われる率は下がります。
ガソリンの値段が上がるとプレートの盗難は増えるんです。
もう一つは車のリヤウィンドウに怪しい張り紙を見つけてもエンジンをかけてから車を降りたりしないで下さい。
悪い奴が近くに潜んでいて車だけでなく、ハンドバッグもついでに盗まれてしまいますよ。
この手口は一時ニュースにもなったから知っている人もいますよね。
筆者は、体も内臓もボロボロですが、闘争心だけは衰えないのであります。
以前は正社員でしたが今はフリーターとなって、強盗現場に誰よりも早く駆けつけ、世の悪と戦っているのです。
でありますから、内容は経験に基づいたものであり単なる想像やあてずっぽうではないんですよ。
MK 寄稿
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