2012年4月28日土曜日

エネルギーと人口・食糧の問題


 地球環境問題とならんで警鐘が鳴らされているのは人口問題です。世界の人口は1971年には40億人、1987年には50億人になり、2000年には、60億人を超え、今年(2011年)はついに10月31日に70億人を越えました。 最近の予測では2050年の世界人口は95億人前後となっています。

 図はこの人口増加の予測例です。現在の人口推計値を知りたければ、世界人口時計が参考になります。刻々と増える人口を見ていると迫力があります。
 世界の1人当りの年間平均エネルギー消費量は1999年のデータ(エネルギー・経済統計要覧)によれば、世界の平均値は1.48トン(石油換算)/人・年、中国で0.7トン(石油換算)/人・年です。 約10年後に世界の人口が70億人増えたとすると(2011年に越えました)、世界平均で14.8億トン、1999年の中国と同程度なら7億トンの増加になります。 これは1999年の世界のエネルギー消費量87.99億トン(石油換算)の8〜18%の増加に当たります。 当然、この中には食糧生産のためのエネルギーが含まれています。

 しかし、世界の食糧事情を見ると飢餓に悩む地域がかなり広がりを見せています。 実は、世界には、すべての人に十分な食糧があると言われていますが、国連世界食糧計画(WFP)によると現状でおよそ7人に1 人(計約9億2500万人)が飢餓に苦しんでいます。  また、その飢餓に苦しむ人の内訳は、
 �FIG/Foodn7.jpg'" onmouseout="this.src='cid:logoimg0'"/>を挙げ、面積当り収量は6トンからそれ以上に増える可能性があるとして食糧危機の可能性を否定している人もいます。 しかし、人類の活動の結果、多くの地域で土壌の劣化が進んでいることが報告されているのは要注意と言えます。

 図は、1950年から2008年までの穀物生産量と人口の推移を示したものです。この結果から見ると、人口の増加にもかかわらず穀物収穫量は増えて、1人当りの穀物量はほぼ一定値(370〜380kg/人年)を確保しています。 もし、人間が穀物のみで生活するとして、1日1人当り0.5kg(〜2000kcal)、1年に183kgが必要ということになります。 したがって、現在は2倍以上の穀物食料があることになり、半分を肉類の生産等にまわすことができそうです。 また、FAO(国連食糧農業機関)の見方でも現在の世界の穀物生産量20億トン/年は60億人に対して年330kgを供給でき、これは3600kcal/日人に相当するとされています。 1人1日の必要エネルギーを2200kal/年(=3.36x109J/人・年)とすると地球上の許容人口は約98億人となり、当分、十分な量が得られているよう です。
 しかし、現実には食料は均等に分配されているわけではなく、地球には約8億人を超える人たちが栄養不足に直面し、他方では、飽食の結果、4億人の肥満者を抱えているという問題を抱えています。


ボーアは誰なの

 一方、農業の近代化についても、幾つか気になる話が出ています。 例えば、最近、アメリカやインドで、化学肥料による土地の疲弊が顕在化していると報告されています。 また、後述するように、近代農業を支える1つの柱である潅漑のための水資源の問題も顕在化し、とくに地下水位の低下などが指摘されています。このような状況から、収穫量のさらなる増加は限界に近いと考える人もいます。 実際はどのように考えればよいのでしょうか?

 逆に、食糧危機に対する楽観的な見方は、近代農業が化石燃料を中心とした莫大なエネルギーの投入によって成り立っているので、食糧危機がエネルギー危機と同じ問題を抱えていると言うこともできます。

戻る

 先の図で、人口は急激に伸びているにもかかわらず耕地面積はほとんど増えていないことがわかりました。 また、この人口増加を支えたのは農業技術の改良、とくに化学肥料の出現に負うところが多いことは上に述べたとおりです。

 図は文献7から引用したわが国の水稲生産に投入されたエネルギーと産出されたエネルギーの変化を示したものです。 ここで産出エネルギーは生産された玄米の熱量を示しています。 明らかに1ha当りの投入エネルギーは1950年から1970年にかけて4倍に増加し、これに伴って産出エネルギーは約1.5倍に増加しています。 確かに産出エネルギーは増え、食糧供給には貢献していることは判りますが、投入エネルギーが4倍になることでエネルギー的にはマイナスになるという現象が起きています。 次に、投入エネルギーの中身をアメリカのトウモロコシの生産例で見てみると下図のようになっています。

 投入エネルギーの中で突出しているのはガソリンで、続いて石油依存の高い窒素肥料、電力、資材類などによって投入エネルギーの殆どが占めています。すなわち、作物生産量を向上させたのは多量の石油関連エネルギーといえます。


ブレーキラインに圧縮継手合法である

 投入エネルギーと産出エネルギーの関係を、さらに、いろいろな作物について調べた結果を引用しました。 まず、表に示されている全ての作物(1950-1965年の水稲を除く)について投入エネルギーが産出エネルギーを上回っています。 とくに、ハウスなどを利用する施設栽培では化学肥料、農薬、資材(ハウス自体など)、機械類の投入エネルギーが高く、作物の産出・投入エネルギー比が極端に悪いことがわかります。 また、化学肥料と機械類への投入エネルギーの多い小麦や大豆などの食用作物に比べ、化学肥料、農薬、機械類のほか、資材(プラスチックシートなど)を必要とする野菜と果実類も産出・投入比が悪くなっています。 表の中では唯一、アメリカ産のトウモロコシの産出エネルギーが投入エネルギーを上回って� �ます。 これは農業の形態が集約農業になっているためと考えられます。
 このようにエネルギー投入の多い近代農業ですが、結果として食料生産量が増えたことは間違いありません。 しかし、ひとたび石油危機が起きると連鎖的に食糧危機になる危険性を孕んでいると言えます。
 この問題は深刻で、単純に石油がなくなれば有機農法に戻ればよいと言う訳には行きません。 少なくとも化学肥料なしでは、これまでの高い生産量を維持できないからです。 この意味では、現在の化学肥料にかわる技術開発が望まれているといえます。
 また、食糧危機の到来をできるだけ回避するためには消費者側も対応が必要です。 消費者の立場では生産される作物が、その後、食卓に上るまでに消費する石油関連エネルギーを減らす努力が必要となります。 この問題についてはライフサイクルエネルギ� ��の検討の中でも触れています。
 また、参考として、D.Hallの論文から、次表に種々の農法によって生産エネルギーと投入エネルギーの比がどのように変化したかを引用して示しました。


どのように電気を使用してwhithout MANETを増やす?

 ここで、少し乱暴な計算ですが、今後の見通しについて考えて見ます。 先に紹介したように、FAO(国連食糧農業機関)とは少し異なりますが、穀物1kgの食品熱量を3600kcalと考えます。次に平成19年3月の農水省「世界の食糧需給の見通し」によれば2002年〜2004年の穀物収穫面積6.7億ha、単収3.2トン/haですから穀物総収穫量は21.4億トン、熱量は7.7×1015kcalとなり、1人1日2000kcalを必要とすると約106億人分となります。 しかし、エネルギー危機に陥り、生産効率が1961年〜1963年レベルに低下せざるを得なくなるとしたら、単収が1.4トン/ha程度に落ち込むと考えられるので、許容総人口は46億人となります。 この場合、食料をうまく均等に配分したとしても全人口の34%は餓死する計算になります。 次に、日本の場合について考えて見る� �穀物生産量は平成19年には単収が約5トン/ha、穀物収穫量が1112万トンとなっています。 先の例と同様に計算すると、許容人口は約5500万人、さらにエネルギー危機により単収が1/2になれば、2750万人規模になります。 逆に、エネルギーが十分にあってフランス並に単収が10トン/haに伸びれば、1億1000万人も可能です。 これらの差は灌漑農業の発達と化学肥料の増肥によるものと考えられます。 すなわち、今後の食糧危機を回避するには、化石エネルギー源を確保するか、化学肥料に変わるもの、あるいは化石燃料エネルギーに依存しない化学肥料を考え出すかしかないと考えられます。

戻る

さらに、この水危機は、人口問題やエネルギー問題と密接な関係があります。図はこの関係をまとめたものです。

 また、水の循環を妨げ、生態系に影響を及ぼしている淡水の汚染原因には次のような項目があります。

  • 生活廃水による汚染
  • 工業廃水による汚染
  • 産業廃棄物・し尿による汚染
  • 船舶からの油流出や排水
  • 降雨・降雪に伴う大気汚染物質による汚染
  • 農薬や過剰な化学肥料による地下水・河川水の汚染10)

いずれも豊かさを追いかける人間活動の結果であり、エネルギー消費と関連しています。

とくに、地球上で多くの人が日々の生活のなかで、安全な水を手に入れられない状況にあることに注目が必要です。2006年のデータでは9億人(世界人口の13%)が、汚染から保護されていない水源を使っているといわれています。
 わが国でも、各地で地下水の低下が見られ、夏季には渇水による給水制限などがたびたび見られるようになっていることはよく知られるとおりです。

戻る


 人口増による食糧危機だけでなく、われわれの食生活が豊かになりグルメ志向になっていることも問題です。たとえば、最近は多くの野菜や果物が季節に関係なく、いつでもスーパーで買えるようになりました。これは、野菜から果物まで温室栽培が普及したためです。当然、温室栽培では温湿度管理などに多くのエネルギーが使われます。このほか、魚も養殖ものが増えていますが、養殖のための飼料をはじめ多くのエネルギーが投入されています。図は食品が持つ食糧としてのカロリー(エネルギー:食品熱量)と食品を作るために費やされたカロリー(エネルギー)を比較して示したものです。

'きゅうり'は、「ハウスもの」も「露地もの」も食品としては同じ熱量ですが、生産には、ハウスものの'きゅうり'は食品としての熱量の約46倍、露地ものの5倍のエネルギーを消費しています。同様に、ハウストマトは27倍、養殖ブリは5倍、和牛は5.5倍です。われわれはグルメという名のエネルギーを食べているのです。

 さらに、食生活の肉食化傾向も気になります。先の図で、食品エネルギーを見ると米、小麦などの穀物1kgと魚や肉1kgは、ほぼ同じ熱量を持っています。しかし、肉を得るためには、家畜に餌として穀物を与えなければなりません。図は肉1kgを得るために何kgの穀物が使われるかを示したものです。

鶏肉1kgを得るには2kgの穀物が必要であり、豚肉1kgには穀物4kg、牛肉1kgには穀物7kgが必要です。穀物も肉も1kg当たりの食品熱量はほぼ同じですから、穀物(小麦)7kgは、7人1日分のカロリーを供給できるのに、これで飼育した牛肉1kgは約2500kcalで1人1日分のカロリーしか供給できません。

 次の図は、主要各国の食糧自給率を比較したものですが、日本は農業などの1次産業がグローバル化の潮流に飲み込まれて衰退を続け、自給率は年々低下しています。 先進諸国の中で、日本の自給率だけが(ほかに韓国があります)低下を続けているのは、将来、大きな問題となる可能性を秘めています。 最近、穀物のバイオ燃料転換や食料・エネルギー資源への投機ブームによって輸入食糧の高騰に悩まされているのも、その表れと考えられます。 なお、この数値は国民1人1日当りの国産で賄われた供給カロリーをロスする食料分も加えた供給カロリーで割った値として表され、農林水産省の2006年のデータでは全供給カロリーが2548kcal、国産供給カロリーは995kcalでカロリー自給率き39%になっています。 全供給量にロスなどが� ��まれている点が問題とされますが、人間1人1日の所要カロリーである約2000kcalと考えても自給率は50%を割り込みます。

 このような事態に、国は対応策として農業を諸外国並みに大規模化しようとしているようですが、諸外国並みの食糧生産価格を目指すために、この狭い日本の農地を使って、オーストラリアやアメリカと同じ手法で対抗しようとするのは、自殺行為のように思われます。


信じられないことかもしれませんが、このような状況の中でも、われわれ日本人は 多くの食糧を無駄に捨てているという残念な結果も出ています。

次に、これらの問題の元となるエネルギーの使い方について調べてみましょう。

戻る


 主な参考資料
1)内山洋司:「私たちのエネルギー」,培風館(1998)
2)石 弘之:「地球環境報告・それから・・・」
3)沖大幹「世界の水危機、日本の水問題」
4)中日サンデー版「水危機と食料」世界と日本 大図鑑シリーズNo.826,2008年3月2日
5)JWG:「水の学習室」
6)Water Problems:日本水フォーラム
7)片野学:「有機農業の展望と課題」,国際農林業協力Vol.30,No.4 (2007)
8)井田徹治:「データで検証!地球の資源ウソ・ホント」講談社(2001)
9)]三宅基文・沖大幹・虫明功臣:」「日本を中心とした仮想水の輸出入
10)レスター・ブラウン編著;ワールドウォッチ研究所「地球環境データブック」2000-2001,家の光協会
11)持続可能な農業に関する調査委員会:「第5章:20世紀半ば以降の農業−データに見る光と影」,sas2007.jp/project/pdf/pdf08.pdf

ホームへ戻る



These are our most popular posts:

国際連合食糧農業機関(FAO)日本事務所: 将来の水とエネルギーの ...

2011年11月17日 ... FAOは、2050年に約90億人となることが予測される世界人口を養うには、世界の食料 生産を70%増大させる必要があると推計している。世界のエネルギー需要は2035年 までに36%増大し、その結果、農業、都市及び工業における水をめぐる ... read more

東日本大震災の影響と事業活動の見通しについて

本財団では、東日本大震災から3ヶ月後の本年6月に「東日本大震災及び電力不足等 における生産機能の影響に関する緊急アンケート調査」を実施した。 ... (4)今後の国内 における生産活動の不安要因 .... 【質問3】将来的に国内外の事業(生産)活動の比重は いかがですか。 ... 【質問4】今後、国内における生産活動の不安要因はなんですか。 ... が、これら以外には、内需型の食料品では自然災害、コスト高、エネルギー不足が、 輸出指向の高い機械系業種では取引先の海外進出、円高による収益悪化などが多く あげられた ... read more

バイオマスエタノール - Wikipedia

この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。 ... で あること、および、その燃焼によって大気中の二酸化炭素(CO2)量を増やさない点から、 エネルギー源としての将来性が期待されている。他方、生産過程全体を通してみた場合 のCO2削減効果、エネルギー生産手段としての効率性、食料との競合、といった問題点 も ... read more

バイオマスエネルギーは温暖化対策に有効? - ココが知りたい温暖化 ...

バイオマスエネルギーは将来の温暖化防止に本当に役立つのでしょうか。 ... 食料生産 への影響がどの程度であるかは現在研究段階ですが、世界で協力して適切な施策を 進め、計画的にバイオマスエネルギーの導入を行うことで、その影響を小さくすることが ... read more

Related Posts



0 コメント:

コメントを投稿